最終講義の報告を兼ねて退職のご挨拶

3月4日の快晴日に,最終講義を行いました.前例を聞いたことがないのですが,参加者が演習林内を歩き回りながらの最終講義でした.「森から教えてもらうことから始まった私はしめくくりも森の中で」という我儘を参加者に押し付けてしまいました.文字通り北は北海道から南は鹿児島まで65名の方が,ぞろぞろと森を歩く光景は,ある意味面白い絵だったかもしれません.


森林土壌の観察サイトにて:150年前のドクチャ-エフの土壌の定義にショックを受けた学部生時代の思い出話を語り,
多くのヒノキを引き倒して根返りだらけにした林にて:風害リスクにかかわる研究の様々な滑稽な思い出を話し,
100年生の壮齢ヒノキ林にて:「造林」と「森の生態系サービス」をつなぐインターフェイスとしての「葉の三次元分布」情報の役割を総括し,葉分布情報を統合した間伐・択伐への応用モデル開発の経緯を紹介し,
人工林の広葉樹林化のためのGAP-SLOSS試験地にて:14年間の植生や散布種子の変遷から鳥誘引の重要性と前生稚樹の重要性と地形に合わせた多様なGapサイズの選択の重要性を語り,
小規模持続型択伐林(SSSシステム)にて: 複雑構造の森づくりプロセスを紹介しました.


背丈ほどのヒノキとアカガシ,ヤブニッケイが混交するSSS林内の択伐ギャップの中で語った(あるいは言いたかった)締めの言葉は,次のような内容でした

「企業のCSRと同様それ以上に,森づくりには社会的な責任が求められます.森林業のCSRを達成する行動には別のCSRが原則となるでしょう.最初のCはComplexity 森林の構造や種組成を複雑にする.森づくりの中で複雑さを意識したいと思っています.複雑構造と森の生態系サービスの関係はよく知られたことです.このことを抜きにしても,複雑さへの意識は重要です・山は不均一な環境の場です.山の不均一性を無視した単純な森づくりは問題があるでしょう.森林スケールでの複雑さを考えることが難しい場合にも,景観スケールでの複雑構造の維持は意識したいと考えています.

次のSはSustainability 持続可能性です.森林経営自体,持続可能であることは基本中の基本です.しかし最近10年間,日本の各地で短期的なデマンドに応じた一時しのぎの森づくりが行われているのではないかと,危機意識を高めています.

最後のRはRight trees in right placesです.(過去には卒業式の時によくこの言葉を使って学生を送っていました.)森林技術の基本中の基本といえる言葉ですが,技術の基本というより,寧ろ森林に携わる人間の倫理的規範の一つとも思っています.現場に出向き,現場の環境に学び,その場に応じたオプションを展開することは常に肝に銘じておきたい原則です. 

森林作業の現場への土木業界からの進出は今や日常的です.一方で森林業からの土木分野での進出も見られます.このため相互の分野の境界は曖昧になりつつあります,量的に効率的な材の搬出等には土木業界の進んだノウハウが有利に働く場合もあるでしょうから,この状態は決して悪いことではないかもしれません.しかしどちらの場合でも,森づくりに関連する場合には,山や森に敬意を払い樹木や生物に愛着を持って CSRの原則に立脚した森林作業の現場であってほしいと思っています.

森づくりへの向き合い方は人それぞれかもしれません.しかし次世代に豊かな森を残すという思いは向き合う人の心の中にはあると信じます.その思いを実現する場合の目安としてCSRがあれば,と思います.」


この講義に参加いただいた,あるいは温かい言葉を寄せていただいた皆さん,ありがとうございました.これまで森林に携わって40年余,様々な場でお世話になった方々に深く感謝いたします.多くのご指導をいただきました.ご指導を十分に生かせずに退くことは残念ですが,森にかかわることができた幸せをかみしめています.ありがとうございました.退職後も,しばらくは本演習林を含め,森づくりに関連して自身の社会的責任を果たしていこうと思いますので,よろしくお願いいたします.

今後も静大演習林はチャレンジし続ける皆様に開かれた演習林として機能していきます.本演習林への応援引き続きよろしくお願いします.

水永博己



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