オンラインセミナー:森と山の科学#6「森林管理における早生樹利用」
オンラインセミナー森と山の科学#6「森林管理における早生樹利用」が開催されました.以下に,コーディネーターによる実施報告書を掲載します.
6月30日19時から夜間オンラインセミナー「森林管理における早生樹利用」を行い,47人(申請者:60人)の方に参加していただきました.早生樹に対する問題意識の高さをうかがい知れました.今回は山梨県森林総合研究所の長池卓男先生とφ森林環境研究所の渡邊定元先生に話題提供いただき,筆者がコーディネートをしました.(以下敬称を略させていただきます)
まず筆者から本セミナーの趣旨説明を行いました.早生樹が求められる背景の説明をしたうえで,静岡県が北米産テーダマツなどの早生樹植栽を推進しようとしている報道を紹介しました.初期成長の早い樹種を導入することは生態的(自然植生の動態)に見ても自然なことであり,許される施業選択だろうと述べました.その一方で,様々な森林に寄せられる国民のニーズを考えた時に,短いインターバルで強い攪乱(皆伐)を繰り返すことは適切ではないことを説明しました.,「早生樹を使いながら早逝林を作らない」ことの重要性を訴えて,渡邉の話題提供の導入としました.
さらに早生樹種としてリストアップされている外国産種を使う上での問題を,共進化の時間の短さという観点で整理し,森林技術者の持つべき基礎知識(流行病・適地適木・侵略性)を確認しました.人為的なコントロールができにくい山岳地の森林経営の中で外国産種植栽をどのように考えるのか問いかけをして,長池の話題提供への導入としました.
またSDGsの林業を謳いながらSDGs15-8(外来種の侵略を2020年までに止める)と相反する外国産種を山に植栽する矛盾,一方で外来種であるモウソウチクの拡大防止に公的コストをかけながら,一方で外国産樹種の植栽を推進しようとする矛盾を行政がどのように説明するのかという素朴な問いかけをしました.
長池は,近年の外国産樹種導入の問題の経緯を振り返り,当初は荒廃農地を対象として話が進められていたものが森林への導入という話になってしまったこと,2021年の森林・林業基本計画では早生樹や外国産樹種というよりもエリートツリー等としての扱いに変化していることを指摘しました.世界的に見ると人工林面積の4割で外国産樹種が植栽されていること,特に荒廃地での植栽に外国産樹種の有用性があることを説明し,ラジアータパインやダグラスファーのように既に林業用に定着した事例があることを紹介しました.これらの背景として,早い初期成長,高ストレス性(特に乾燥や貧栄養),樹種特性の情報の豊富さが外来種導入のモチベーションになっていることを指摘しました.しかし日本ではマツ類やユーカリ類を中心とした気象災害及び病虫害による失敗の歴史があることも同時に指摘しました.外国産樹種導入の問題では,植栽された場所でのリスクとして水利用の問題やイヤ地問題,多様性低下の問題を,植栽地周辺の問題として逸出の問題を指摘しました.【中でも,原産地での中国でのコウヨウザンが土壌劣化をもたらす負の側面の複数の学術情報やニュージーランドでのラジアータパイン駆除に多額のコストをかけている情報は筆者には印象に残るショックなものでした.】こうした情報があまり日本に伝わることなく,どちらかといえば植栽推進に都合の良い情報だけが独り歩きしていることに警鐘を鳴らしました.こうしたリスクの一方で,外来種について負の側面ばかりが強調されている「外来種の神話」など,外来種批判への批判があることも報告されました.そのうえで科学的なリスクアセスメントの重要性と,リスクアセスメントが不十分なままでの外来種導入が推進されようとしている問題を指摘しました.また人為的土地利用の改変や外来種の導入,気候変動によって過去にみられていない種の組み合わせによる生態系(ノベル・エコシステム)の研究が始まっており,わが国でもこうした研究が早期に求められるとしめくくりました.
渡邉は,まず東アジアの早生樹の歴史を紹介しました.中国・韓国では多くの外国産樹種が失敗に終わり,前者はポプラ,後者はカラマツが成功したわずかな例だといえると結論付けました.また日本でも多くの外国産樹種導入の失敗の歴史があり,造林樹種として定着した外国産樹種が皆無であることを述べ,世界的に見て日本のような温暖湿潤気候はわずかな地域しかなく,このため海外での外国産樹種の導入の事情とは異なり,ユニークな気候帯の中で定着した樹種の利用を考えるべきことを示唆しました.
さらに気候変動枠組条約に触れ,気候変動下での森林の在るべきゴールとして,高蓄積,高成長,高収益,多様な機能,生物多様性があるが,これらは互いにトレードオフ関係にあるもので,それぞれの妥協点をはかりながら森林経営をするには,同齢択伐林などの持続的森林経営が必要であることを力説しました.このなかで早生樹利用も持続的森林経営の枠組みの中で考えるべきことを指摘しました.
そのうえで,それぞれの気候帯での自生種の早生樹になりうる樹種をリストアップしました.また暖温帯を例に中林施業の提案をしました.ヤマザクラとセンダンの混植による中林作業を「渡邊モデル」と呼び,初期にヤマザクラの小物利用から,ステージをおうごとに利用対象を変え,最終的には同齢択伐林の構造へ移行するというアイデアを説明して話題提供を終えました.
筆者も含め三者ともに,早生樹といえども外国産樹種の利用を安易に進めるべきではなく,自生種の中から早生樹をまず考えてみることでは一致していたと思います.
質問では,早生樹の林の具体的な場所への質問や渡邊モデルの実践例に関する質問がありました.前者に対して回答が十分ではない印象を持たれたかもしれません.少なくとも,筆者は望ましい森林の在り方(たとえば,高蓄積,高成長,高収益,多様な機能,多様性)としての早生樹の成功例が日本の中に存在するのかすら,わからないので,明確なお返事を控えました.
早生樹の需要があるのかという質問がありましたが,行政の立場から,合板会社など川下側からの強いニーズを受けての行政の施策であることが説明されました.本セミナーの企画は川下側からの強いニーズに対する川上側の戸惑いや不安を受けたのが企画の意図の一つでしたが,もう一つの森林の受益者である森林産業に携わらない県民或いは国民の思いを知りたかった意図も持っておりました.早生樹導入(特に外国産樹種導入)の問題に「森林の部外者」を排除するのではなく,県民とともに早生樹利用のありかたを議論する場があればと思います.
国内移入種の問題の質問もありました.時間の関係で十分な議論にならず,遺伝子汚染の問題に議論がずれてしまったことは筆者の力不足でした.本来の分布でない国産樹種を植えることの問題は,長池が紹介した「ノベル・エコシステム」の中で,外国産樹種と同様の研究対象になるべき事柄だろうという感想を持ちました.
このセミナーが提案した「望ましい早生樹利用」の一例は,地域の自生の先駆種のなかから有用な種を複数組み合わせて【筆者は,異なる遷移ステージの種も含めたい】,短伐期にならないような持続的森林経営と,まとめられると思います.
予定時間を45分も超えた2時間以上に及ぶオンラインセミナーになりましたが,多くの方が最後まで参加いただきました.お二人の講演者とともに参加者の皆様全員にお礼申し上げます.
静岡大学農学部地域フィールド科学教育研究センター
森林生態系部門 水永博己